新撰組が京に帰ってきたと耳にしたのがつい先日。
貴方を想うだけで切なくて哀しくて・・
早く会いたい。
五月。桜は散り、五月雨の季節。
昼間は雨で人通りが少ない嶋原も、夜になると毎夜のように賑やかになる。
今宵も上総は客の前で舞い、酒を注ぎ、客の話を聴いて楽しんでいた。
それ以上は何もない。
中にはそれ以上のことを求めて訪れる客も少なくはない。
例えば、今宵の客もその一人だ。
嫌でも気持ち悪くても・・これは仕事。
「上総・・そろそろ俺のものになれよ」
「堪忍どす。私はお座敷専属の花魁どすえ。それ以上のことはあきまへん」
いつもの台詞で断るが、それでもこのような客は
上総の傍に寄ってきては身体に触れようとするのが当たり前。
その度に上総の付の禿が店の女将を呼びに行き、お叱りを受けるのもいつもの事。
それでも反省の様子はなく、何事もなかったように客は酒を飲みなおしていた。
・・はぁ。
私がお相手したいのはこんな人じゃないのに・・。
土方さん。
貴方を想いすぎて切ないです。
私は貴方に恋をしてしまったようです。
こんな人間なのに・・
私は貴方を愛してもいいのでしょうか・・。
「お義母はん、いってきます」
次の日の昼間、上総は同じ店の花魁のと町に出掛けた。
今日の天候は雲一つない晴天。嶋原は昨日と比べて人通りが多い。
町に新しい小物屋が出来たのだと花魁仲間の姐さんに教えてもらったのだ。
「上総ぁ、行こう」
今日一緒に出かける優というこの娘も京の人間ではなく、
江戸の下総という場所から奉公に来たのだという。
いつもは京言葉を使う花魁だが、店を出るとついつい普段の言葉を使ってしまう。
「待って!」
待ちきれない優を追い、評判の小物屋はすぐ目の前だ。
だが、すぐ目の前にある店なのに足が思うように動かない・・。
「上総?」
先に店についていた優も立ち止まった上総を心配して引き返した。
目の前には
会いたかった人。
・・でも
隣の綺麗な女性は誰?
土方さんが、好いている方なのですか?
気が付くと上総は自分の部屋で呆然としていた。
あれからどうやってここまで帰ってきたのか。
一緒にいた優とは何を話したのか。
行ってみたかった小物屋で何を買ったのか。
それさえも覚えていない。
あの情景は自分自身にとって驚きであったのだ。
土方さん・・
もちろんあの人は私の恋人なんかじゃない。
癒しを求めて嶋原に来るお客様。
ただ、それだけで。
自分の意思を彼に伝えたわけではない。
でも
私は彼を心から愛しているのだと感じるようになった。
私の事を知って欲しい。愛して欲しい。
そんな想いが私の胸の中で秘めている。
そう・・だから私は、
あの綺麗な女性に嫉妬していたのだ。
「上総、土方はんが来はりましたえ」
「!!」
彼にいつものように接する事が出来るだろうか。
不安であったが仕事なのだ。行くしかない。
いつものように紅を右の人差し指に取り桃色の唇に塗りつける。
だがその手は震えてしまい、いつものように上手く付けることが出来ない。
怖いのだ。
彼になんて言われるのか。
あの女性が彼にとって本当に愛する人ならば
きっと今日彼女との関係を話すだろう。
話を聴くのが怖くて・・
でも会いたいと気持ちもあって・・
上総の心は色々な葛藤で溢れていた。
「お待たせ致しました」
いつものように派手な紅い着物に髪には輝く簪。
そして誇り溢れた表情で彼が待つ部屋へ入っていく。
土方は上総が部屋に入り、襖が閉まったと同時に彼女を抱き締めた。
「・・上総」
「!」
抱き締められた瞬間、あの綺麗な女性を思い出して
思わず彼の胸を押し返し、後ろを向いて部屋の隅で蹲った。
「どうした?」
「・・・」
心配そうに声を掛ける土方に啜り泣く音が聴こえる。
土方は上総を自分の方に向かせ、零れ落ちる涙を指で拭った。
「何を泣いている」
「・・・だって土方さんが」
彼には言わないほうがいい。私の気持ちが分かってしまうから。
そう思って頑張って我慢していたのに・・
彼が心配してくれる顔を見たら想いが溢れ出して、涙が止まらなくて。
白い頬に流れ落ちる涙を何度も何度も彼は拭ってくれた。
なんて優しい人。
「町で綺麗な女性と一緒だったから・・驚いて」
「あぁ」
「私は・・・その女性が羨ましかったの。貴方と一緒にいる彼女が」
私の想いを貴方に伝えたい・・
「土方さん・・私は貴方をあ」
精一杯の言葉を言いかけて彼の大きな手に口を覆われた。
「それは・・俺の言葉を聞いてからにしてくれ」
上総がゆっくりと頷くのを確認すると覆っていた手を外した。
「あれは・・これを選ぶ為に八木家の娘に来てもらった。贈り物だ」
そして袖から取り出したのは漆塗りで紅い桜模様の簪。そして端から垂れ下がる装飾。
土方か上総の後ろ髪にそっと簪を差し込んだ。
ゆらゆらと揺れる装飾部分が一層上品な印象を与える。
それに満足したのか土方の顔は笑っていた。
「上総・・お前が好きだ」
土方の頬が紅く染まるのと同時に上総の頬も紅く染まる。
愛している人からの告白に嬉しくて、嬉しすぎて。
なんて幸せなのだろう・・
「私も・・貴方を愛しています」
心から貴方を愛する事を誓います。この想いはきっと変わらない。
今宵、朧な光が私たちを祝福してくれているそうで二人で月を見ながら幸せに浸った夜だった。
きっと・・この幸せな日を私はずっと・・忘れない。
5話終了しました。遅くなりました。
土方さんの恋人疑惑。総司が勝手に思い込んでますが結局は総司のだったのです。
そういうのってよく恋愛の中ではよくある話。
ちなみに優はオリジナルキャラです。本当に脇役です。笑
次のお話はちょっと***なお話。笑。また読んでくださると嬉しいですv
背景の花は睡蓮。花言葉は清純な心。信仰。
10/31 11/4
