宴から早五日。土方は連日嶋原へ足を運んでいる。
以前の宴では芹沢派の一人が上総太夫と顔馴染みだったため
常連客のように土方も会話が出来たのだが、一人での初回はかなり優遇が違う。
初会の客とでは花魁は客とは離れたところに座り、客と口を利かず飲食もしなかった。
遊郭では当たり前な事で、この際に客の品定めをされ、
花魁がふさわしくないと思われたら、その客は花魁と付き合うことができなかったのである。
もちろん、土方も上総と一対一の初回では口も利かず、ただお互いが酒を嗜む程度の時間だった。
裏とよばれる二回目でも初回とは余り変わらない嗜みであったが、
上総は日に日に自分に近づいてくれてるような気がした。
そして先日ようやく上総を馴染みになり、店に自分の名前の入った膳と箸が用意された。
馴染みになると、客は他の花魁との浮気ができなくなるという証でもある。
他の花魁に通った場合、その花魁の新造や禿に馴染みの花魁に知らされてしまうことになるのだ。
「本当はあの遠くにいた時も土方様に近づきたかったんどすえ」
そういって宴の頃と変わらない笑顔を土方に見せてくれるようになった。
この笑顔が見たいか為に土方は何度この店に通ったのだろうか。
夜になれば、昼間に片付けた仕事の書類を机に丁寧に重ねて、嶋原へと足を運ぶ。
綺麗で可愛くて・・いっその事自分の妻にしたとも思うくらい土方は惚れ込んでいた。
「今度、桜を見に行くか・・」
季節はもうすぐ春。桜の蕾もそろそろ開きそうな暖かい季節。
その話をすると上総は嬉しそうに微笑んだ。
「ほんまどすか?京に来てから間近で桜を見はるなんて・・時間がないから・・」
そう呟くと上総にの瞳には涙が溢れていた。
あの誇り高い姿とは裏腹に、こういった弱き姿を見ると
上総の知らない部分が自分だけ見れたようで・・土方は嬉しかった。
そして桜の花も間近で見たことが久しい事だと知り、提案してよかったと心から思った。
あの綺麗な笑顔が桜を見ることで、どんな特上の満面の笑顔に変わるのだろうか。
「早く桜・・咲いておくれやす」
まるで純粋な女子のように、上総は顔の前で左右の指を付ける様につけて祈るような姿をした。
そんな上総の横で土方が愛しい眼差しを向けていた。
「土方様・・」
その視線に気づいたのか、上総が土方の横に座り甘えるように頭部を肩に預けた。
お互いの体温を感じる。薄絹越しの温もり・・それが凄く心地よくて上総は眠ってしまいそうになった。
「上総・・。様は外してくれないか?」
「え?」
「土方でいい。なんか余所余所しくて嫌なんだ」
上総が彼の顔を見ると耳まで紅く染めている。くすくすと笑って上総は名前を言い直した。
「土方さん。これでよろしおすか?」
「あぁ」
弥生の暖かく優しい夜風が吹く季節の出来事。
なんだか微妙なお話に。少し進展あり?笑
遊郭というと色々な決め事があるようですね。
総司なら初回から土方さんに抱きついてるような気もするのですが、
今回は資料に則ってお話書いてみました。説明文が多くなりましたが・・。
京言葉では「土方はん」とか使うのが正しいのでしょうか・・。
でもなんとなく余所余所しいというか・・。
由季、京都の人じゃないので方言がいまいちよく分かりません。
次は桜を見に行く場面になると思います。
背景の花は海老根(エビネ)。花言葉は秘めやかな愛。
10/9
